「~ いただき (もらい)、~ ください (くれ)」

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(これまで翻訳ストレッチセミナーに参加された皆様へ - 金融翻訳者の日記)
敬語を外すと「参考にしてもらい、締め直してみてくれ」となる。2 つの文に分けると「参考にしてもらう。締め直してみてくれ」となる。
 
「参考にする」の動作主は「読者」であるが、「参考にしてもらう」の動作主は「私」である。「締め直す」「締め直してみる」「締め直してみてくれる」の動作主はいずれも「読者」である。

したがって「参考にしてもらい、締め直してみてくれ」という文章は、前半の動作主が「私」であり後半の動作主が「読者」であるという文章になっている。おそらく敬語 (謙譲語: いただく、尊敬語: くださる) を使わなければこのようなちぐはぐな文章にはならなかったはずである。
 

  • 一貫して動作主を「私」にする場合:
    「参考にしてもらう。そして締め直してみてもらう」
    「参考にしていただき、締め直していただきます」
  • 一貫して動作主を「読者」にする場合:
    「参考にしてくれ。そして締め直してみてくれ」
    「参考にして締め直してみてください」
    「参考に締め直してみてください」
    「参考にしたうえで締め直してみてください」

 




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(英字新聞ジャパンタイムズがおくる通訳・翻訳キャリアガイド2018)
「入力してもらい、応募してくれ」?
 
もちろん「~ してもらい、~ してくれ」という構造の文は存在する。たとえば上司が部下に向かって「お客さんにアンケートに答えてもらって、その結果を報告してくれ」と言う文である。この場合、「答える」の動作主は「お客さん」である。「答えてもらう」の動作主は「部下」である。「報告する」の動作主は「部下」である。「報告してくれる」の動作主も部下である。
 
 
 

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(Sekky's Website。専門は英語辞書学,応用言語学)
「利用してもらう場合は気をつけてくれ」?
 
たとえば店長が店員に対して「(お客さんに) 利用してもらう場合は (店員であるあなたが) 気をつけてくれ」と言うならよい。「利用する」のは「客」であるが「利用してもらう」のも「気をつける」のも店員であるからである。つまり「~ してもらう場合は、~ してくれ」という表現が成立するためには、3 者 (この場合は「店長 (発言者)」「店員 (利用してもらう人であり、かつ気をつける人)」「客 (利用する人)」) が必要であるということである。
 
しかし「本サイトをご利用いただく場合は, 以下のガイドラインにご留意ください」は、「利用してもらう人であり、かつ発言者」「利用する人であり、かつ留意する人 」の 2 者しか存在しない。
  
また「本サイトをごらんいただいているみなさまへ」とあるが、本サイトをごらんいただいている (見ていただいている、見てもらっている) のは「みなさま」ではなくて「先生」である。



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(http://www.ni.com/myni/dashboard/ja/)
「利用してもらうにはログインしてくれ」?


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(翻訳にまつわる話しー3選!! - 「伝わる翻訳」言葉のコンシェルジュ - 山田翻訳事務所)
「興味を持ってもらって会いに来てくれる人」?


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(ApSIC Xbench でワイルドカード検索 | つぼログ。 | 横浜で翻訳業務を行うシーブレインスタッフによる技術情報ブログ)
「読んでもらって応募してくれ」?
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「お読みいただき、ご応募ください」(読んでもらいます。そして応募してください。) (自分の行為 + 相手の行為)
「お読みいただき、ご応募いただきます」(読んでもらいます。そして応募してもらいます。) (自分の行為 + 自分の行為)
「お読みになり、ご応募ください」(読んでください。そして応募してください。) (相手の行為 + 相手の行為)
 
「~ もらい、~ くれ」の組み合わせであっても、たとえば学校で先生が児童に書類を渡して「お父さんに名前を書いてもらって、明日持ってきてください」という指示を与えるのなら問題はない。なぜなら (書くのはお父さんであるが) 書いてもらうのは児童であり、持ってきてくれるのも児童であるからである。動作主は一貫して児童であって、ぶれがない。

しかし「説明をお読みいただき、要項に従ってご応募ください」の場合は、(読むのは応募者であるが) 読んでもらう (お読みいただく) のは募集者であり、応募してくれる (ご応募くださる) のは応募者である。動作主は、前半が募集者であり、後半が応募者であって、ぶれている。