レール・ツー・レール(フルスイング)入力 ―― 知っておくべきこと(非公式訳)

原典:
e2e.ti.comテキサス・インスツルメンツ)(Apr 16th, 2013)


文: Bruce Trump


レール・ツー・レール(R/R)オペアンプは大変人気があります。電源電圧の低い場合は特に便利です。レール・ツー・レール入力がどのようなしくみで実現されているのかを知っておく必要があります。また、その長所・短所についても理解する必要があります。


Figure 1は、Vin+、Vin-のどちらもNチャンネルFETとPチャンネルFETとのペアで構成されたレール・ツー・レール入力段の典型例です。PチャンネルFETが受け持つのは、「同相モード電圧範囲のうちの下側の領域」~「負電源電圧(単電源の場合はグラウンド電位)を少し下回る同相電圧(外側)」までの範囲の信号です。NチャンネルFETが受け持つのは、「正電源電圧に近い同相電圧(内側)」~「正電源電圧を少し上回る同相電圧(外側)」までの範囲の信号です。図には示していませんが、どちらのチャンネルのFETを通過した信号を後段の回路で処理するのかを決める回路が別に設けてあります。このように入力段が二重になっているテキサス・インスツルメンツオペアンプの大半は、正電源電圧から約1.3V下(内側)の電圧レベルでトランジスタ(FET)のチャンネルが切り換わるよう設計してあります。この電圧レベルよりも入力信号の電圧が高いと、Pチャンネル段のゲート電圧が足りませんので、入力信号はNチャンネル段へと向かいます。



Pチャンネルの入力段とNチャンネルの入力段とでは、どうしてもオフセット電圧に少し違いが出てしまいます。そのため、チャンネルの切り換わる電圧レベルを入力同相電圧が通過するときにオフセット電圧に変化が生じます。一部のオペアンプは、入力段のオフセットを小さくする手段として、レーザーや電子的な手法でトリミングを施した状態で出荷されます。そうすれば、チャンネルの切り換わるタイミングでの変化は減ります。しかし若干は残ります。PチャンネルからNチャンネルへの切り換えを制御する回路は、グラウンド電位を基準にしているのではなく正電源電圧を基準にしています。ですから、3.3V電源の場合は電源電圧のだいたい真ん中の電圧というやっかいな電圧レベルでチャンネルが切り換わります。


オフセットのこうした変化は、普通は気にする必要はありませんが、高い精度の必要な場合には問題になるおそれがあります。交流回路の場合は、歪みを生じさせる原因にもなりえます。ただ、しつこいようですが、オフセット電圧に変化が生じるのは、チャンネルの切り換わる電圧レベルを入力同相電圧が通過するときだけです。


Figure 2は、レール・ツー・レール入力段のもうひとつの例です。Pチャンネルだけで構成された入力段の電源電圧を内蔵チャージ・ポンプで正電源電圧の約2V上まで(外側まで)ブーストします。こうすれば、1種類のチャンネルだけでレール・ツー・レール入力電圧範囲の全域にわたって(負電源電圧~正電源電圧の範囲の外側まで)滑らかな動作が可能となります。チャンネルの切り換わりにともなう変化が生じません。



チャージ・ポンプというと、ノイズの発生源になりそうで一部の設計者には嫌われます。しかしテキサス・インスツルメンツの最新製品は驚くほど低ノイズです。入力段にしか電力を供給しませんので、必要な電流はごくわずかです。余分な端子もキャパシタもありません。全部内蔵してあります。チャージ・ポンプ・ノイズは、ブロードバンド・ノイズ・レベルよりも低く、オシロスコープではほとんど観測できません。しかし、ブロードバンド・ノイズ・レベルよりも低いスペクトル応答を分析するような用途の場合は、ノイズが若干観測されるかもしれません。


必ずしもすべての用途でレール・ツー・レール入力オペアンプが必要なわけではありません。たとえば反転オペアンプや、利得が1よりも大きなアンプは、レール・ツー・レール出力は必要であっても、レール・ツー・レール入力は不要な場合が多い。本当にレール・ツー・レール入力のアンプが必要ですか? 同相範囲を超えたときのことが心配なせいで、レール・ツー・レール入力のオペアンプを使いたがる技術者が多くいます。そうした技術者は、レール・ツー・レール入力が必要であろうと、そうでなかろうと、レール・ツー・レール入力のオペアンプを多用します。レール・ツー・レールの種類とその長所・短所とを知っておけば、何を選ぶにせよ、もっと賢明に選べます。