オペアンプの入力電圧範囲 & 出力電圧範囲 ―― ちょっとした混乱を解消する(非公式訳)

原典: e2e.ti.com(May 8th, 2012)(テキサス・インスツルメンツ

文: Bruce Trump

オペアンプの電源電圧、入力電圧範囲、出力電圧範囲についてよく質問を受けます。混乱しやすいので整理してみましょう


基本的なことですが普通のオペアンプにはグラウンド端子がありません。グラウンド電位がどこにあるのかはオペアンプにはわからないわけですから、正負両電源で動作しているのか単電源で動作しているのかもオペアンプにはわかりません。電源電圧、入力電圧、出力電圧の3つとも動作範囲内にあればすべてよしということです。


考えなければならない重要な電圧範囲は次の3つです。


1. 全体の電源電圧範囲: 2本ある電源端子間の電圧のことです。たとえば±15Vなら全体で30Vということです。オペアンプの動作電圧範囲は、たとえば6Vのこともあれば36Vのこともあり、まちまちです。全体の電源電圧が6ボルトなら、±3Vの両電源の場合もあれば+6Vの単電源の場合もあります。全体の電源電圧が36ボルトなら、±18Vの両電源、+36Vの単電源のどちらも可能です。負電源を-6V、正電源を+30Vにすることもできます。そう、下の2、3に気をつけていれば、電源電圧がかたよっていても構わないのです。


2. 入力同相電圧範囲(C-M範囲): Figure 1に示したように、正電源電圧と負電源電圧とを基準にした相対値で規定されるのが一般的です。図に例示したオペアンプのC-M範囲は、「負電源の2V上(内側)」~「正電源の2.5V下(内側)」の範囲と表現できます。式で表せば、(V-)+2V ~ (V+)-2.5Vの範囲ということです。


3. 出力電圧範囲(出力スイング幅): これも、正負の電源電圧を基準にした相対値で規定されるのが普通です。Figure 1のオペアンプの出力電圧範囲は(V-)+1V ~ (V+)-1.5Vということです。


Figure 1、2、3の各例は、利得(G) = 1のバッファー回路です。ここで大切なことを言います。Figure 1の回路の出力電圧範囲は、「負電源電圧の2V上(内側)」~「正電源電圧の2.5V下(内側)」の範囲に制限されます。なぜなら、入力C-M範囲のほうが出力電圧範囲よりも狭いからです。このオペアンプの出力電圧範囲いっぱいまで出力電圧を振るためには、もっと利得の高い回路構成にする必要があります。



Figure 1の回路は両電源用オペアンプの典型例です。図中の電圧範囲に収まってさえいれば、単電源用オペアンプでなくても単電源での動作が可能です。


Figure 2に示したのは、いわゆる単電源用オペアンプです。C-M範囲が負電源電圧まで達しています。負電源電圧をわずかに下回るところまで(負電源電圧の外側まで)達していることも多い。そのため、グラウンド電位に近いところで動作するさまざまな回路に使用できます。単電源用とうたっていないオペアンプであっても、場合によっては単電源回路で使用することはできますが、単電源専用タイプのほうが、この種の用途には融通が利きます。


利得(G) = 1のこのバッファー回路に使っているオペアンプの出力電圧範囲は、「負電源電圧の0.5V上(内側)」(オペアンプの出力電圧範囲に制限されるため)~「正電源電圧の2.2V下(内側)」(入力C-M範囲のほうが狭いため)の範囲となります。


Figure 3には、レール・ツー・レール(フルスイング)オペアンプを示しました。入力電圧範囲は、Figure 3に示したように、正負両方の電源電圧かそれを少し超える範囲にまで(正負両電源電圧の外側にまで)達しています。レール・ツー・レール(フルスイング)出力とは、正負両方の電源電圧にごく近い電圧まで(電源電圧の内側10mV~100mVの範囲まで)出力電圧が振れるという意味です。オペアンプによっては、出力だけレール・ツー・レールを実現していて、Figure 3に示した入力特性を実現していないものもあります。レール・ツー・レール・オペアンプは、限られた電源電圧範囲で信号電圧が最大限に活かせますので、5V以下の単電源で非常によく使われています。


レール・ツー・レール・オペアンプなら、信号電圧に対する制約が軽くなりますので、魅力的ではあります。だからといって、いつもレール・ツー・レール・オペアンプを選べばよいということではありません。あちらを立てればこちらが立たずということがよくあります。